建築費と土地代の高騰が止まらず、顧客はついに「住宅面積の縮小」という選択を強いられています。この逆境のなか、「従来のやり方」で新築受注を追うことは、もはや限界です。
しかし、この危機は、お客様の住宅に対する価値観が「デザイン」から「資産価値」と「安心」へと明確にシフトしている大きなチャンスでもあります。
本記事では、最新の調査データから見えてきた、工務店が価格競争から脱却し、高確率で受注に繋げるための3つの市場トレンドと、具体的な提案の鉄則を解説します。
この変化を事業成長の機会に変えるための戦略の参考にしていただけると幸いです。
目次
価格高騰の波は止まらない。顧客があきらめ始めたものとは?
深刻な建築費と土地代の上昇
SUUMOリサーチ「2024年 注文住宅動向・トレンド調査」によると、建築費の全国平均は3,415万円で、前年より229万円増加し、過去最高値に。

顧客の対応: この高騰に対し、顧客が予算内で実現するために「住宅面積の縮小」を最も多く選択しています。 [2023年度戸建住宅の顧客実態調査]

トレンド1:単なる「自由なデザイン」より「高性能」と「保証」
顧客の価値観が「夢や理想」から「資産価値」と「ランニングコスト」へシフトしています。
重視点の変化: 以前は「設計の自由度」や「外観のデザイン」が重視されていたが、近年ではその割合が減少し、代わりに以下の要素が増加している。
重視度が増加した項目(2024年):
・「ZEHであること」
・「アフターサービス及び保証制度が良いこと」
出典:SUUMOリサーチセンター「2024年 注文住宅動向・トレンド調査」

工務店の戦略:
・アフター保証の強化:差別化の鍵は、保証制度の充実。地場の工務店こそ、大手ハウスメーカー並み、あるいはそれ以上の手厚い長期保証を整備し、安心感を訴求することが重要。
・性能基準の「見える化」: 2025年からの省エネ基準の全棟義務化を背景に、ZEHや省エネ性能を「当たり前の基準」として提案軸に据え、「断熱新時代」のニーズに応える。[SUUMOリサーチセンター 住まいのトレンド]
トレンド2:増加する「平屋」と「コンパクト化」に潜む顧客ニーズ
コスト高を背景に、建物の階数や面積を再考する顧客が増えている傾向があります。
・平屋の動向: 注文住宅建築者のうち「平屋建て」を選ぶ割合が年々増加し、2024年には22.1%に達している。[2024年注文住宅動向・トレンド調査]

・顧客の声: 平屋を選んだ主な理由は、「老後も暮らしやすいと思ったから」が最多(66.8%)。[2024年注文住宅動向・トレンド調査]

工務店の戦略:
・「コンパクトでも快適」な提案: 平屋は2階建てより建築費用が低い(平均3,034万円と、2階建て以上の平均より約490万円低い)データもあり、予算を抑えつつ老後の安心や動線確保を求める層に響きます。[2024年注文住宅動向・トレンド調査]

・新たな空間需要:「ヌック(小さなこもりスペース)」や窓際のベンチなど、リビングとは別の「くつろぎスペース」が増加傾向にある。これは、面積を抑えつつも豊かな暮らしを求める顧客心理の現れであり、設計で応えるべきポイントです。
トレンド3:中古・リフォーム検討層の増加と工務店のチャンス
新築にこだわらず、中古・リフォームを柔軟に検討する層が増加しており、買取再販事業やリフォーム事業強化の重要性が高まっています。
中古・リフォーム検討率の上昇: 「中古一戸建て」「中古マンション」「リフォーム」の検討率に上昇傾向が見られる。また、「買い替え」を検討している方の割合が、2024年は30%になった。

リノベーション費用の増加: リノベーション費用も平均で1,570万円に上昇しており、内容にこだわる層が増加。特に二重窓(内窓)など省エネ性能向上に予算をかけるユーザーが増えている。
工務店の戦略:
・「新築だけ」からの脱却:「中古+高性能リフォーム」というパッケージ提案を強化すべきです。高性能リフォームは単なる修繕ではなく、住宅の資産価値と快適性を高めるため、高額な予算をかける顧客が増えている今がチャンスです。
・買い替え層へのアプローチ:「買い替え」を検討している層も増加傾向(2024年は30%)にあり、既存顧客(OB)への売却サポートから新築・リフォームに繋げる循環型ビジネスの構築が求められます。
まとめ:価格高騰をチャンスに変える工務店のアクションプラン
この価格高騰時代において、工務店が価格競争から脱却し、生き残る道は明確です。
それは、単に家を建てる提供者から、顧客の「資産価値の最大化」と「安心」を提供するパートナーへと進化することに他なりません。
1.顧客の関心は「デザイン」から「資産価値」と「安心」に移ったことを認識する。
2.「ZEH」「長期保証」「平屋・コンパクト化」をパッケージ化した高コスパな提案軸を確立する。
3.新築だけでなく、中古・リフォーム市場へ積極的に展開し、事業の多角化を図る。
次の一手:工務店が「不動産」という武器を持つことの重要性
これらの戦略的な次の一手を打つためには、住宅購入者や建築検討者とより早い段階で、競合他社のいない状態で出会うことが不可欠です。
特に、トレンド3で示したように、「中古+高性能リフォーム」や「買い替え」層へのアプローチを強化するには、顧客が不動産の売買や探し始める検討の初期段階から関与できなければ、提案の機会を逃してしまいます。
そこで、工務店は自社の強みである「建築・性能」と、顧客との接点を広げる「不動産」を組み合わせるべきです。
・「中古+高性能リフォーム」をワンストップで提案するため。
・「買い替え」を検討する既存顧客(OB)に対し、売却サポートから新しい高性能な家づくりへとシームレスに繋げるため。
工務店が不動産仲介(売買)という武器を持つことは、単なる事業の多角化に留まりません。
それは、顧客の住まい探し(土地探し、中古物件探し)の入り口を抑え、性能やコストを考慮した最適な提案を、競合他社に先んじて行うための「最重要戦略」となるのです。
価格高騰という逆境を、顧客と早期に出会い、真の価値(資産価値と安心)を提供する「循環型ビジネス」構築のチャンスに変えましょう。
【引用資料一覧】
・SUUMOリサーチセンター「2024年 注文住宅動向・トレンド調査」
・SUUMOジャーナル「注文住宅トレンド2024! 注目は、平屋・ヌック・タイパ・省エネ・ランドリールームなど7キーワード」
・SUUMOジャーナル「2024年住まいのトレンドワードは『断熱新時代』!」
・SUUMOリサーチセンター「住宅購入・建築検討者調査(2024年)」
(注: 資料内の数値は発表時点のものであり、最新情報は各出典元をご確認ください)















