私道が絡む物件の仲介において、最も警戒すべきは「改正法があるから大丈夫」という楽観的な見通しです。法文上は手続きが簡略化されたように見えても、自治体や建築確認の現場実務がそれに即座に追いついているとは限りません。
万が一、承諾が得られず着工できないとなれば、仲介会社として売主・買主双方を巻き込む大きなトラブルに発展するおそれがあります。
実務者が知っておくべき「法改正の限界」と「リスク回避のポイント」について、弁護士が実例をもとに詳しく解説します。
目次
相談事例
Q: 位置指定道路の共有者1名から掘削承諾が得られない場合、令和5年の民法改正を根拠に水道引込み工事を進められますか。
A: 原則として進められません。民法改正後も、実務上は私道共有者全員の通行・掘削承諾が必要です。
相談背景
不動産仲介会社からの相談です。
売主が自宅隣地を売却し、その土地を買主が取得する予定ですが、前面道路は位置指定道路で、売主・買主ともにその私道を使わなければ生活できない状況でした。
上水道の引込み直しのため私道を掘削する必要がありますが、自治体からは共有者全員の承諾書提出を求められています。
ところが、私道持分の大半を持つ不動産会社1社が、承諾依頼に回答しません。
そこで仲介会社としては、「令和5年の民法改正で通知だけで足りるのか」「承諾が取れないままでも工事や建築確認を進められないか」と悩んでいる事案です。
私道の持分については、買主が9分の1を売主から取得予定で、隣に住んでいる売主が9分の1を継続して所有し、残りの9分の7は不動産業者が所有していますが、その不動産会社から回答がないとの相談です。
弁護士の回答
1.令和5年改正があっても、承諾不要にはならない理由
令和5年改正では、いわゆるライフライン設置・利用権に関するルールが新設されました。
そのため、「水道管の引込みであれば、私道共有者の同意がなくても進められるのではないか」と誤解されがちです。
しかし、実務上はそう単純ではありません。
法改正の前提資料でも、私道所有者との関係で必要な同意が当然に不要になるとは整理されていません。したがって、改正を理由に共有者の承諾なしで掘削できると考えるのは危険です。
法改正によって「ライフライン設置・利用権」という権利が創設されましたが、それは「勝手に工事してよい」というわけではなく、裁判手続等を経て権利が認められて初めて工事が可能になるのです。このように勝手に工事をするようなことを「自力救済」と言って、日本の法律では禁じられています。
2.建築確認や行政実務では、なお全員承諾が重い
本件で重要なのは、単なる民法解釈だけではなく、建築確認や上下水道行政の実務がどう動くかです。
現場では、私道共有者全員から「通行・掘削承諾」を求められる運用が今も根強く残っています。特に位置指定道路では、道路利用の安定性が重視されるため、自治体が慎重になる傾向があります。
法律論として争える余地がある場面でも、行政実務が承諾書を要求する以上、現実には承諾未取得のまま前に進めないことが少なくありません。
3.共有者1名が応じないとき、強制手段は乏しい
やっかいなのは、共有者のうち1名が単に沈黙している場合です。
相手が存在し連絡も届いているのに返答しないのであれば、すぐに強制できる決定打は多くありません。
他方で、その不動産会社が実質的に閉鎖状態なのか、登記上は存在していても活動実態がないのかで、次の打ち手は変わります。
つまり、まずは「生きている会社なのに無回答なのか」「所在不明に近いのか」を切り分けることが、実務対応の出発点になります。
「生きている会社なのに無回答」の場合は、解決コストが嵩みます。正式な裁判等で対応するしかないからです。
他方「所在不明」や「休眠会社」の場合、所有者不明土地管理制度といった手続きを利用することで、コストは発生しますが、一定のコストと半年から1年弱の時間をかければ、裁判所を通じて適法な手続をとって進めることが可能なケースが多いです。
4.仲介会社として取るべき現実的な対応策
仲介会社としては、まず相手方法人の登記、送達先、営業実態を確認し、承諾取得のための記録を丁寧に残すべきです。
そのうえで、自治体や建築確認担当と事前協議し、どこまでの資料があれば例外的対応の余地があるかを探ります。
実際には、ほぼ全員の同意が取れており、残る1名が所在不明に近いことを、弁護士の調査等で裏付けたうえで建築確認が進んだ例もあります。
ただし、これはあくまで例外です。基本は全員同意を前提に動くべきであり、売買契約や引渡し時期も慎重に組む必要があります。
5.まとめ
私道の掘削承諾については、令和5年改正後も「通知で足りる」とは言い切れず、現場実務では今なお共有者全員の承諾が重視されます。
共有者1名が応じない場合、法的に一気に解決するのは難しく、相手方の実態調査と行政との事前協議を積み重ねることが現実的です。
また、早期解決可能なケースかどうかも事案によって変わってきますので、適宜、弁護士に相談のうえ対応していく必要があるといえるでしょう。
弁護士の実務コメント
この論点は、法改正の文言だけが独り歩きしやすく、現場では誤解が多い分野です。
実際には、法解釈よりも建築確認や自治体運用が結果を左右します。
不動産仲介の現場では、「改正があるから大丈夫」と楽観せず、承諾取得の難しさ自体を早期に共有することが最も重要です。
山村 暢彦氏弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士
実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。
数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。
相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。
クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。
現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数7名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。
2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。
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神奈川県弁護士会 所属
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