
今回から新連載として、「弁護士が解説する『不動産業のよくある相談事例』」をスタートします。不動産ビジネスは、法規制が多く、専門的な知識が求められる分野です。
物件王は、これまで多くの建築会社様の不動産事業参入を支援してきましたが、その中で宅地建物取引業法や建築基準法、民法など、様々な法律に関するご質問を多数いただいております。
そこで、物件王の顧問弁護士である山村法律事務所 代表弁護士 山村 暢彦先生に、実際に寄せられた相談事例をもとに、不動産取引における法的判断や対応のポイントを分かりやすく解説していただきます。
記念すべき第1回は、中古戸建の売買で起こりがちな「契約不適合免責と隠れた瑕疵」に関するご相談です。ぜひ、日々の業務の参考にしてください。
【相談事例】契約不適合免責の中古戸建で「外壁のエアコン穴」が問題に…解除は可能?
Q:契約後に建物の外壁に「エアコン穴」が見つかりました。契約不適合免責でも、解除や手付金の返還は請求できますか?
A:残念ながら、買主様のご主張が法的に認められる可能性は非常に低いと考えられます。
■仲介会社から弁護士への相談内容
すでに売買契約を締結済みの中古戸建(任意売却物件)について、買主から「手付解除をしたい」との申し出がありました。
本物件は契約時に「契約不適合責任を免責」とする条項が含まれており、売主側は瑕疵についての責任を負わない内容となっています。
ところが、契約後の外構工事打ち合わせのために買主の親族(外構業者)が現地確認を行ったところ、外壁にエアコンの配管穴が空いたままになっていることが判明しました。
この親族より、「このままでは雨水の浸入や白アリ発生のリスクが高く、購入すべきではない」との指摘があり、買主もそれに同調して、契約の解除を希望しています。
買主側としては、
• 売主はこのような重大な欠陥を把握していながら穴をふさがず売却しようとしていたのではないか?
• 不動産会社(仲介)もこの事実に気づかず、管理が行き届いていなかったのでは?
と疑問を呈しており、「手付金の全額放棄」ではなく「半額のみの放棄」など、柔軟な対応ができないか?といったご相談をいただいています。
なお、仲介会社としても、契約時点でこの穴の存在に気づけていなかった点は認識しており、現実的な解決策を模索したいという立場です。
弁護士の回答
1.「エアコン穴」があっても、契約解除は基本的に認められない
エアコンの配管穴がふさがれていないという不具合は、住宅の安全性や居住性に影響し得るものですが、それだけで契約の解除に至るような重大な契約不適合とは評価されにくいのが実務の現実です。
仮に契約不適合責任が認められたとしても、「補修請求」や「損害賠償請求」の対象となる程度であり、「契約解除」に至るのは相当ハードルが高いです。
端的にいうと、解除しなくとも「補修・修理すればよい」と判断されてしまうレベルの瑕疵にすぎないと評価される可能性が高いと考えられます。
2.今回は「契約不適合責任免責」の特約付きであり、法的請求はさらに困難
今回の売買契約には、契約不適合責任を免除する特約が入っているとのことです。このような特約がある以上、たとえ不具合があっても、売主に対して解除や補修・損害賠償を求めることは原則としてできません。
加えて、仮に売主が「その穴の存在を知っていた」としても、よほどの悪意(わざと隠したなど)や重大な過失がなければ、免責条項を覆すことは非常に難しいです。
今回は「比較的見つけにくい不具合」にとどまっており、売主が悪意や重大な過失でこれを隠していたと立証するのは困難です。
3.仲介業者(貴社)の責任が問われる可能性も低い
仲介会社として、事前にすべての構造上の不具合を把握・説明する義務があるわけではありません。
特に、エアコンの穴のように容易に外観から発見しづらい箇所については、仲介会社にまで責任を問うのは困難だと考えられます。実務的には何か不具合があると「説明義務違反だ!」と主張されることが多いですが、裁判例上、説明義務による責任を問うハードルは高いです。仲介会社が負うべき「説明義務・調査義務」は無制限なものではないのは、意外と知られていないことだと思います。
4.対応として可能なのは、あくまで「任意の配慮」レベル
買主様として取れる現実的な手段は、手付解除(手付金放棄による契約解除)です。
ただ、事情を考慮して、どうしてもという場合には、売主側に買主の心情を伝え、手付金の一部返還を交渉することは考えられます。
ただし、これはあくまで売主の善意・任意対応の範囲に留まるものであり、法的な義務とはなりません。
5.まとめ
買主様やその親族の心情は理解できますが、法律上は、今回の事案は「買主が通常負担すべきリスクの範囲内」にあると評価される可能性が高いです。
契約不適合免責の合意がある以上、法的な救済は難しく、解除するならば手付放棄を前提とすることになります。
弁護士の実務コメント
今回のご相談自体は、本来であれば、「契約不適合責任による解除はできないか?」と買主側から主張されるところ、買主側にも法律に詳しい方がおり、「原則手付解除だけれども、契約不適合により融通する余地はないのか?」と交渉をかけられているという、なんとも実務的な相談内容だと思います。
その上で、弁護士としては、厳密にはケースバイケースなものの、「契約不適合免責特約あり」しかも「瑕疵の程度からすれば、解除まで肯定されるおそれは低い」と判断して、アドバイスいたしました。
買主さんの心情もわからないわけではないのですが、契約後に関しては、裁判例相場等を踏まえて、対応していくほかないかと思います。
でないと、どうしても不動産取引は、過剰な要求を受けやすいので、裁判例・法律に則った対応を進めていく必要があると言えるでしょう。

山村 暢彦氏
弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士
実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。
数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。
相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。
クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。
現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数7名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。
弁護士法人 山村法律事務所
神奈川県横浜市中区本町3丁目24-2 ニュー本町ビル6階
電話番号 045-211-4275
神奈川県弁護士会 所属
山村法律事務所ウェブサイト
不動産・相続:https://fudousan-lawyer.jp/
企業法務 :https://yamamura-law.jp/
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山村先生、ありがとうございました。
今回の事例のように、不動産取引では予期せぬトラブルが発生することがあります。
特に、契約不適合責任や免責条項については、その内容を正確に理解し、適切な対応をすることが非常に重要です。
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