中古戸建の決済直前に発生した豪雨被害。
物件が床下浸水した際、買主から「白紙解約したい」という申し出が出ることは珍しくありませんが、心情だけで判断を下すのは極めて危険です。
安易な回答は、売主側との深刻なトラブルを招く恐れがあります。
予期せぬ水害時、法的に「違約金」はどこまで発生し、どの程度の「決済延期」が認められるのか。
本記事では、実際に寄せられた相談事例をベースに、仲介担当者が守るべき契約の原則と実務的な境界線について、不動産法務に強い弁護士が詳しく解説します。
目次
相談事例
Q: 決済直前に中古戸建が豪雨で床下浸水した場合、買主は違約金なしで解約できますか。
A: 原則として難しいです。もっとも、決済延期の合理性がある場面では、売主側の決済延期の違約を理由とした解除や高額な違約金請求も簡単には認められません。
相談背景
不動産仲介会社からのご相談です。
5月に中古戸建の売買契約を締結し、8月下旬に決済予定だったところ、決済直前に豪雨で対象物件が床下浸水しました。
売主は速やかに排水・清掃を行い、買主も当初はショックを受けながらも、最終的には購入に向けて再度動き出しました。
もっとも、水害を受けたことで、買主はリノベーション計画を大幅に見直すことになりました。高基礎や地盤のかさ上げ、周辺擁壁の確認など、当初予定していなかった検討が必要となり、金融機関の再審査も発生しています。
そのため、買主側としては決済を2か月ほど延期したい意向です。
これに対し、売主側からは「1か月しか待てない」「難しいなら違約金を減額して合意解除にしたい」との話が出ており、買主仲介としてどこまで整理し、どこまで動くべきかが問題となりました。
弁護士の回答
1.買主からの解除が認められにくい理由
まず、豪雨による床下浸水があったとしても、それだけで当然に買主が無条件で契約解除できるとは限りません。
今回のように、売主が速やかに排水・清掃を実施し、被害の程度も床下浸水にとどまる場合には、「契約の目的を達成できないほどの重大な支障」とまでは評価されにくいからです。
しかも、重説時点でハザードマップの説明がされていたのであれば、一定の水害リスク自体は買主も認識していたことになります。
したがって、買主側の心理的ショックは理解できても、法的には直ちに違約金なしの解除にはつながりにくい、というのが出発点です。
2.違約金条項と合意解除の違い
契約書に違約金条項がある場合、買主都合で履行をやめるなら、原則として契約どおりの違約金が発生します。仲介会社としても、まずはその原則を前提に説明する必要があります。
他方で、実務では「法的には請求できる」と「実際にその満額で収束できる」は別問題です。相手方が強く反発し、結局は訴訟でしか回収できない場面も少なくありません。
そのため、紛争の長期化を避ける観点から、当事者双方が歩み寄って契約書記載の違約金から減額のうえ合意解除すること自体はあり得ます。
ただし、それはあくまで売主が応じるかどうかの問題であり、買主が当然に減額を要求できるという話ではありません。
3.決済延期が合理的なら、売主の違約解除も簡単ではない
本件で重要なのは、その後、買主が「やはり履行したい」と態度を改め、決済延期のうえで購入に向けて動いている点です。
水害を受けてリノベーション計画を見直し、銀行の再審査にも時間がかかる以上、2か月程度の延期には相応の合理性があります。
そうすると、たとえ原契約の決済日を経過しても、直ちに「買主の債務不履行だから違約解除、違約金満額」という流れにはなりにくいです。
契約条項に「相手方の責めに帰することができない事由によるときは違約金請求できない」とあるなら、なおさら、豪雨被害とそれに伴う再調整の必要性を無視して、売主が強硬に違約金付き解除を押し切るのは難しいと考えられます。
4.仲介会社の調整範囲と実務対応
買主仲介として大切なのは、買主の感情に引きずられて過剰な主張を前に出さないことです。
最初の段階では、法的には違約金発生が原則であること、売主にも次の住み替え事情があり一定の配慮が必要なことを丁寧に説明し、買主を落ち着かせる必要があります。
そのうえで、事態の収拾のために、売主側へ「合理的な範囲での延期」や「万一まとまらない場合の着地点」を打診するところまでは、実務上あり得る対応です。
ただし、仲介会社が買主の代理人のように前のめりで違約金の減額交渉を主導するのは危険です。法的主張を本格的に戦わせる局面になれば、そこは弁護士対応の領域です。
仲介としては、事実関係を整理し、双方の認識のズレを小さくし、合意可能な幅があるかを確認するところまでに留めるのが安全です。
5.まとめ
中古戸建の売買で、決済直前に豪雨被害が生じた場合でも、床下浸水と売主の適切な初動対応があるなら、買主が一方的に違約金なしで解除するのは原則難しいです。
他方で、その後の事情から決済延期に合理性があるなら、売主が違約解除や違約金満額請求を押し切れるとも限りません。
不動産仲介の現場では、「契約どおりが原則」と「現実にどう収束させるか」を分けて整理することが重要です。
弁護士の実務コメント
この種の水害トラブルでは、感情面では買主に強い同情が集まりやすい一方、裁判になれば契約書と具体的事情に沿ってかなり淡々と判断されます。
売主の責めに帰すべき事情ではない以上、法的には買主からの解除は通りにくいのが基本的な方向性です。
実務感覚としては、当初の買主解除局面では違約金条項が強く働きやすく、その後の延期局面では一転して売主側の強硬解除が通りにくくなる、という形で局面ごとに見え方が変わります。
仲介会社としては、その都度「今どちらが法的に強いか」を整理し直す姿勢が大切です。
以上
山村 暢彦氏弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士
実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。
数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。
相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。
クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。
現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数7名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。
2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。
弁護士法人 山村法律事務所
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神奈川県弁護士会 所属
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